2013年3月20日

旅の日記


4月1日
今日はじめてモンスターを殺した。
ドラキーとか言うコウモリのようなモンスターだ。
殺した後、気分が悪くなり、僕は吐いてしまった。
モンスターと言えど、いきものである事に変わりはない。
守るべき家族も、友もいるはずだ。
断末魔の叫びが耳に残る・・・

4月3日

今日はガライの町まで来た。
しだいにモンスター狩りにも慣れてきた。
旅は、すべてモンスターを殺して奪い取った金品でまかなっている。
勇者と盗賊の違いはなんだろう・・・
そんなことを考えながら、血の染みた金で宿屋に泊まった。
寝床はやわらかく、あたたかかったが、相変わらずあのフラッシュバックと頭痛と吐き気に悩まされる。
これからは、しばらく野宿になるだろう。
食費や宿代も馬鹿にならない。

4月6日
森の中にたたずむ小さな村、マイラに来た。
モンスターとの戦いで、体はくたくただ。
この村には温泉がある。傷を癒すにはちょうど良いだろう。
村のはずれで、ぱふぱふを売る少女に出会った。
見れば、まだ幼さの残るいたいけな少女だった。
家はあるのだろうか、家族はいるのだろうか・・・
今、この少女に情けをかけ、幾ばくかの施しを与えたところで何かが変わるわけでもない。
それはわかっている。だがそうせずにはいられなかった。
富める王族の影で貧しさにあえぐ民、やはりこの国は何かがおかしい。
少し前にギラとホイミを覚えた。

4月7日
大さそりと初めて戦った。
ギラでけん制しつつ、急所を竹やりで貫く。
強い武器を買うまでの間は、この戦法で十分戦えそうだ。
少しずつ戦闘にも慣れてきた。

4月8日
マイラの村で野宿をしながら、周辺のモンスターと戦う。
いつものように、竹やりで魔法使いを倒すと、奴らにやられたのであろうか、
てつの斧を握ったまま、無残な姿となった木こりに気づく。
いつの日か、この斧を、彼の家族の手に返すときが、やって来るかもしれない・・・
そう思った僕は、その日が来るまで、彼のてつの斧を預かることにした。
これで、すこしは戦闘が楽になるだろう。

4月9日
経験がまだ浅いせいか、重い武器は合わないことが分かった。
竹やりで長く戦っていたことがあだとなり、斧の戦闘になかなか慣れない。
まあ、威力があるぶん硬い相手には有効なのだが・・・

4月10日
がいこつと戦った。
なかなか手強い相手だったが、ギラで目潰しをして、竹やりで胸を貫いてやった。
その戦闘で竹やりが折れてしまった。
斧一本で戦うのは少々心もとない。

4月12日
やっと斧の戦闘に慣れてきた。
今日はメイジドラキー2匹とがいこつ5体、それから大さそりを4体ほど殺した。
そろそろ、暖かい食事とベッドが恋しい。
今夜は宿屋で休むことにしよう。


4月13日
毒の沼地の中へ入った。
歩くたびごとにダメージを受け、全身に激痛が走る。
メーダとか言う一つ目のモンスターを3体ほど殺した。
ようやく毒の沼地を抜け、沼地の洞窟に突入。
洞窟内をさまよっているうちに、たいまつが切れてしまった。
手探りで奥に進んでいくと・・・彼に出会った。

4月14日

これまで、たった一人で苦しい旅を続けてきたが、初めて友と呼べる相手にめぐり会えた。
彼は西の城の王の密命を受けて、ここで何かの番をしているらしい。
今ある武器がぼろぼろになってしまったことを告げると、彼は僕に鋼の剣をくれた。
鉄の鎧もいるかと聞かれたが、重くなって動きが鈍ると嫌なので断った。
なんと気持ちの良いやつなんだろう。
旅立ちのとき、剣の一振りも与えてくれなかったラルス王とは大違いだ。
鋼の剣は鉄の武器よりも軽く良く斬れる。
いつか彼と共に旅がしたい。

4月15日
ここ最近、沼地の洞窟をねぐらにしている。
洞窟の出口は新しい大陸とつながっていて、新しいモンスターとの戦いが続いた。
リカントとか言うかなり凶暴な奴だが、彼から貰った鋼の剣があれば、どんな敵も怖くはない。
夜は洞窟に帰ると外の話を土産に彼と話した。
なぜか彼は焚き火に近づこうとはしない。
訳を聞くと、暗闇に目をならしておきたいらしい。
彼こそ、本物の戦士なのだと感じた。

4月20日
今日は少し遠出をして新しい町を見つけた。
町の人の話ではあの洞窟にはドラゴンが出るらしい。
彼はきっと、そのドラゴンから武器か何かを護っているに違いない。
洞窟に戻り、彼に「今度ドラゴンが来たときは一緒に戦おう」と話した。
彼は「ありがとう」と言ったが、その言葉にはどこか悲しげな響きがあった。

4月21日
なんてことだ!
あの洞窟のドラゴンは、竜王がさらったローラ姫を護っているらしい。
リムルダールの宿屋で偶然聞いてしまった。
まさか、彼が・・・
洞窟内のあの時の悲しげな彼の姿が脳裏をよぎる。

4月22日
「あぁ、神よ・・・」
なんという運命の悪戯だろうか。
あの洞窟の扉を開けたとき、寝ている彼の真実の姿を見てしまった。
彼はドラゴンだったのだ。
いったい、どうしたら・・・
神よ・・・あなたは、ローラ姫を助けるために、彼を殺せというのか・・・
僕は苦悩を深めつつも、その場を立ち去った。

4月23日
友情と使命・・・葛藤の狭間で何かがはじけ、砕け散った。
もう迷うことはない。
僕は、見えない力に突き動かされ、竜王の城に向かった。

4月26日
廃墟になった町に着いた。
ドムドーラと言われていたらしい。
モンスターであふれかえっている。
武者修行にはちょうど良いだろう。

4月27日
町を探索して、キラーリカント、だいまどう、スターキメラ、向かい来る敵は容赦なく殺した。
激しい疲労の中、体中にきしむような痛みが走り、眉間に皺が寄るのを感じた。
ベホイミを覚えた。
これで、回復には苦労しなくなるだろう。
もっとも、ここ最近、敵の攻撃をまともに受けることはなくなっていた。

4月28日
この近辺のモンスターの親玉だろう。
特別強いモンスターと戦った。
半日以上の死闘の末、何とか倒すことができた。
なんと、奴はロトの鎧を護っていたのだ。
皮の鎧と同じくらい軽くて使いやすい。
その上毒の沼地やバリアーでもダメージを受けない優れものだ。

4月30日
途中の城塞都市を無視して一気に雨の祠まで行った。
雨の祠では、なにやら癖のありそうな老人が、竜王の城に行くための雨雲の杖を隠し持っていた。
その老人が言うには、銀の竪琴をここに持ってくれば、それを勇者の力の証として認め、銀の竪琴と引き換えに雨雲の杖を渡すという。
僕は先を急ぎたい気持ちを抑えながら、老人の言葉に従った。

5月1日
魔物の巣窟、ガライの墓を盗掘した。
ここが魔物の巣窟になったのには理由がある。
ガライの町の創立者であり、吟遊詩人でもあったガライの持つ竪琴には、魔物を呼ぶ力があったという。
彼の死後、共に葬られたその竪琴は今でも魔物を引き寄せているというのだ。
墓の中には魔物がうじゃうじゃいたが、ドムドーラで死線を超えたお陰か、それほど苦も無く銀の竪琴を手に入れることができた。
ガライの町に行く途中、久々にラダトームへと立ち寄った。
なんと太陽の石はラダトームにあったのだ。
ラルス王は本当に知らなかったのだろうか?それとも・・・
そう言えば、沼地の洞窟に入る前の毒の沼地でメダルのようなものを拾った。
鎧の紋章と同じ紋章が描かれていた。一体なんだろう?

5月2日
再び雨の祠に行き、竪琴を老人に手渡した。
老人は嬉しそうに竪琴を手に取り眺めながら弦の付け根をいじっている。
音が出ると魔物が大喜びで寄ってくる竪琴だ。
僕は制止しようとあわてて手を伸ばした。
けげんな顔をしている老人の手に、竪琴から外された弦があった。
こんなにも簡単に外れるものだったのか・・・
魔物を呼ばないように、弦に触れないように、ずっと気をつけながら持ってきたというのに・・・
僕は苦労を思い起こし、肩を落とした。
老人はそんな僕に気に留める様子もなく、そそくさと雨雲の杖を僕に手渡した。

5月3日
竜王の城に行くための最後のアイテムである虹のしずくを手に入れた。
聖なる祠の老人に沼地で拾ったメダルを見せたら、あっさりくれた。
他の奴が拾って見せていたら、どうする気だったんだろう・・・

5月4日
ここまで旅を続けて1ヶ月あまり、ついに虹の橋を架けることができた。
明日はいよいよ竜王の城だ。



5月5日
竜王の城へと入った。
中のモンスターは、外とは比べ物にならないほど強い。
全身にかなりのダメージを負ったが、ここで朽ち果てるわけにはいかない。

5月6日
やっとの思いで最深部まで到達した。
鋼の剣は、何度も研ぎなおしたせいか、少し短くなってしまった。
まあ、この方が使いやすい。
この剣を見ていると、彼のことが思い出される・・・

5月7日
竜王の玉座を見つけた。
中は空だった。玉座の後ろを覗いてみると、階段が下に続いていた。
この階の敵は、さらに手強かった。
きっと竜王の近衛なのだろう。
だが、もはや負ける気はしない。

5月8日
とうとう僕は竜王の元にたどり着いた。
どれくらい時が経ったのだろう。
城壁の隙間から漏れ入る月明かりに照らされた竜王のその姿は、モンスターを従える「竜王」と呼ぶに相応しい風格と威厳を備えていた。
僕は竜王から「世界を二分しないか」と持ちかけられたが、断って竜王に仕えさせてくれるよう頼んだ。
竜王は一瞬言葉を失っていたが、やがて傍らの側近に目を向けた。
その視線の先には、あの洞窟内で出会った彼の姿があった。
竜王は静かにうなずき、ロトの剣を僕に預けた。
やはり、二人の友情は真実のものだった。

7月6日
僕の率いるラダトーム攻略部隊は、城の近くまで迫っていた。
彼は討伐軍総司令官として前線の指揮をとっている。
あの日、あの洞窟で、僕は友情と使命を天秤にかけ、友情を選んだのだ。
堅牢なメルキドさえ落とした我が軍に、もはや人質など必要なかった。
僕は、この2ヶ月のあいだ監視下に置いていたローラ姫を解放した。
しかし、彼女の帰るべき城は、すでに風前の灯火となっていた。
ラダトーム陥落は時間の問題なのだ。
ローラ姫には気の毒なことをした。
震える彼女にかけるべき言葉を探してみたが、何も見つからなかった。

7月7日
ついにラダトームは陥落した。
降伏したラルス1世は退位し、竜王が新しいアレフガルドの王として即位した。
将軍となった僕は、ローラ姫を妻として迎えた。
「アレフガルド万歳!竜王万歳!」
人々は口々に叫びながら、新しい王の発する言葉を待った。

竜王:
「我らは、絶望と憎悪に満ちた暗黒の時代を終わらせ、この地に王道楽土を築くためにやってきた。」
「いまこのときより、人と魔物は、たがいに心を寄せ合う、友として生きるのだ!」
「我らを信じ、我らと共に歩むものには、永久に続く争いのない暮らしを約束しようぞ!」

その友愛と信義に満ちた言葉に、人々の歓喜は絶頂に達した。
竜王の両隣には僕と彼が、そして僕の隣にはローラがいる。
そのローラの瞳には、かつて眉間に皺を寄せ、必死に痛みに耐えていたあの頃の自分の姿は、どこにもなかった。
歓喜の声は次第に遠ざかり、いつの間にか僕は、あのときと同じ白い光に包まれていった・・・

《電子音》
「ピッ・・ピッ・・・ピー

白い人:
胸ポケットからペンライトを取り出し、横たわる男の瞳に向けて左右に振る。
9月7日 時13分・・・」

今、ひとりの男の旅が、窓辺から差し込み始めた朝の光とともに終わりを告げようとしている。
朝のやわらかな光は、まるで旅の終わりを祝福するかのように降り注ぎ、彼をその光の中へと導いていった。
やがて彼は、空高く続くその光の坂道を、誰に見守られることもなく、静かに昇っていくのだった。

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