旅立ちの日
白い人:
「オピオイド・・・」「フェン・・タニル・・・」
老人:
「闇の竜 翼広げる時 ロトの血をひきし者来たりて 闇を照らす光とならん。」
「おお神よ!古き言い伝えの勇者に 光あれ!!」
《ラダトームの宿屋》
「ここは・・・どこだ?」
フラッシュバックと激しい頭痛に襲われ、僕は目を覚ました。
「たしか・・・僕は森で倒れていたところを旅の商人に助けられ、この町に着いた・・・」
僕は微かに残る記憶の断片をつなぎ合わせた。
「ううっ!・・・」
森の中でモンスターにでも襲われていたのだろうか、全身の関節に鋭い痛みが走った。
それにしても、朦朧とした意識の中で、確かに聞いた老人のあの古き言い伝え
「ロトの血をひきし者」とは、僕のことなのか・・・
そして、フラッシュバックに現れる、あの〝白い人〟はいったい・・・
〝白い人〟が話していた「オピオイド」「フェンタニル」とはなんのことだろう・・・
なにも思い出せない。
僕の名はフェン・タニル?オピオイド村に住んでいたのか?
あの白い人たちは、オピオイド村の住人なのか?それとも神か?
今はそんな疑問より、自分の置かれている状況の把握が先だろう。
白い光に包まれ、森の中で倒れていたこの僕を、ラダトームの人々は伝説の勇者「タニル」として迎え、アレフガルドの王、ラルス王に謁見させようとさえしている。
とにかく、そのことだけは揺るぎない事実なのだ。
《ラダトーム城》
ラルスⅠ世:
「おおタニル!勇者ロトの血をひきし者よ!そなたがやって来るのを待ち望んでおった。」
「その昔、伝説の勇者ロトは神からひかりの玉をさずかり、この世界をおおっていた魔物たちを封じこめたという。」
「しかし、いずこともなく現れた悪魔の化身"竜王"がその玉を闇にとざしてしまったのじゃ!」
「このままでは世界は闇にのみこまれ、やがてほろんでしまうことだろう。」
「勇者タニルよ!竜王を倒し、その手からひかりの玉を取りもどしてくれ!」
「わしからのおくり物じゃ!そこにある宝箱を開けるがよい。」
「そなたの役に立つ物が入っておるはずじゃ。」
「そして、この部屋にいる者に尋ねれば、旅の心得を教えてくれよう。」
「では また会おう!勇者タニルよ!」
ラルス王は、そう言って一方的にまくし立てると、支度金とたいまつをくれた。
〝120G?〟ふと、支度金に目をやった僕は一瞬目を疑った。
これでは竹やりかこんぼう程度の武器しか買えない。
しかも、なぜ、たいまつなんだ。
城の武器庫には剣や鎧が豊富にあるだろうに・・・
僕は、苛立つ心を宥めながら、王の傍にかしずく大臣のひとりに、旅の心得を尋ねた。
大臣:
「ローラ姫は王様の大切なひとり娘じゃ。」
「王妃様が亡くなられてからは、ローラ姫が王様の心の支えになっておられたのだが・・・」
「その姫様が魔物たちにさらわれて半年になる。」
「王様は何もおっしゃらないが、心の中ではどれほど苦しんでおられることか・・・」
「タニルどの!どうかローラ姫を助け出してくだされ!」
大臣の肩越しに見えるラルス王の口もとが、ほんの一瞬緩んだ。
とても娘の安否を気遣う親には見えないが・・・
それに大臣の芝居がかった話も、どことなく胡散臭い。
この国の人々は、本当にこの王に満足しているのだろうか。
僕は、そんな疑念を抱きながらも、得体の知れない大きな流れに身を任せることにした。
さっそく僕は町の道具屋で竹やりと布の服を買い、旅の支度を整えた。
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